自然災害、被災地の調査とWASCの所見
近年、豪雨や地震などの自然災害は激甚化・頻発化しています。
WASCでは、災害発生後に被災地へ赴き、現地で被害状況を自らの目で確認・分析し、その知見をもとに、安全な敷地選びや住宅づくりに役立つ情報を発信し続けています。
私たちが現地で重視しているのは、
「どのような場所で被害が起きているのか」
「その土地の地形や地盤の成り立ちはどうか」
「過去にどのように利用されてきた土地なのか」
「被災した建物にはどのような特徴があるのか」
そして
「被害を免れた建物は、どのような立地・基礎構造だったのか」
といった視点です。
被災地で得られた事実を丁寧に読み解き、日々の業務へ反映していく。
それがWASCの基本姿勢です。
創業以来、数多くの被災地視察を通じて、私たちは多くの教訓を得てきました。
それは、盛土地盤の脆弱性、先人たちの土地利用の知恵、農地・農村が抱える地盤特性、避けるべき土地の見極め、増改築がもたらす影響、そして河川地形が災害に与える大きな意味です。
これらの学びを蓄積し、未来の被害を減らすために。
WASCはこれからも、現地に足を運び、事実に学び続けます。
- » 能登半島地震(2024/1)
- » 大阪・西成の住宅崩落事故(2021/6)
- » 北海道胆振東部地震(2018/9)
- » 西日本豪雨(2018/7)
- » 熊本地震(2016/4)
- » 広島市を襲った豪雨災害(2014/8)
- » 岐阜県の集中豪雨は被災地に行った知人から情報をいただきました(2010/7/15)
- » 兵庫県佐用町を襲った豪雨(2009/8/9)
- » 東京都八王子市での斜面の崩れ(2008/8/29)
- » 愛知県岡崎市での豪雨と住宅の被害(2008/8/28)
- » 岩手宮城内陸地震(2008/6/13)
- » 中越沖地震(2007/7/16)
- » 熊本県集中豪雨(2007/7)
- » 能登半島地震(2007/3/25)
- » 中越地震(2004/10/23)
2024年1月1日:能登半島地震
地震では、建物倒壊や津波、斜面崩壊、道路寸断などの被害に加え、各地で大規模な液状化被害が発生しました。特に石川県内灘町やかほく市、金沢市沿岸部などの砂丘背後地・埋立地では、地盤の側方流動・液状化により住宅の不同沈下や傾斜、道路の隆起沈下、上下水道の破損などが広範囲で確認されました。
内灘町では、多数の住宅が大きく傾斜し、生活継続が困難となる被害が発生しました。住宅自体の損傷が比較的小さく見える場合でも、地盤変状によって建物機能が大きく損なわれる事例が多く見られ、液状化被害の深刻さが改めて社会的に注目される地震となりました。
当社では、地震発生直後から、熊本地震時に行ったボランティア対応のような支援活動を、液状化被災地でも実施できないかと各方面へ打診しておりました。
その中で、内灘町議であり、ご自身も液状化によってご自宅が不同沈下する被害を受けられた方とご縁をいただき、2024年3月17日(日)に地元自治会主催の「意見交換会および地盤改良勉強会」にて、今後の対応や地盤対策についてご説明させていただきました。
また、その際に個別にご相談いただいた方々に対しては、現状把握のための水準測量や、沈下修正工事に関するご相談対応などを進めました。
写真1:勉強会の様子
写真2:液状化で大きな被害が発生した内灘町西荒屋付近
写真3:液状化で埋没した祠
写真4:液状化で地盤が沈下して柱状改良が露出
写真5:液状化で不同沈下した住宅
写真6:液状化で多量の噴砂が発生
写真7:液状化で多量の噴砂が発生
2021年6月25日:大阪・西成の住宅崩落事故
大阪市西成区天下茶屋東2丁目の住宅地で空石積み擁壁が崩壊し、2棟の住宅が崖下に崩落する事故がありました。
事故があったのは、大阪市内中心部に位置する高台「上町台地」の西側斜面沿いにあり、崩壊したのは高さ約9mの空石積み擁壁でした。
擁壁の崩壊に伴い、その上に建っていた住宅が崩落しました。
擁壁崩落の原因については、把握できる情報をもとに推測・考察した内容について、日経アーキテクチュアにより取材を受けています。詳細については、下記記事をご覧ください。
2021年7月7日 日経クロステック/日経アーキテクチュア
「大阪・西成の住宅崩落事故、 空石積み擁壁が崩れたメカニズムを探る」
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00154/01254/?i_cid=nbpnxt_sied_blogcard
写真1:倒壊後の様子
写真2:倒壊後の様子
画像1 土地条件図(国土地理院)を加工して作成
2018年9月6日:北海道胆振東部地震
液状化で多数の住宅が不同沈下した札幌市清田区里塚美しが丘地区では、1968年よび2003年の十勝沖地震でも液状化が発生しており、今回、再液状化したことが確認されました。
周辺の地盤は火山灰土で構成されており、被害が集中した地区は谷埋め盛土によって造成された土地でした。
さらに、
1.谷埋め盛土であったこと
2.盛土材火山灰土が使用されていたこと
3.地震前日の降雨により地下水位が上昇していたこと
これらの条件が重なったことで、大きな被害につながったとされています。
北海道では、住宅の地盤改良としてコンクリート杭が広く採用されています。
そして被災地でも、これまで視察してきた災害現場と同様に、液状化によって周辺地盤が大きく沈下した場所であっても、杭で支持されていた建物は地盤と同じようには沈下せず、杭が建物を支え続けている事例が確認されました。
写真1:北広島市大曲並木の被害
写真2:写真1の裏側から
写真3:札幌市清田区里塚の被害②
写真4:札幌市清田区里塚の被害①
2018年6月28日~7月8日:西日本豪雨(平成30年7月豪雨)
広島県内では古くから多くの水害・土砂災害が発生しており、中でも約100年前の大水害では、多くの水害記念碑が建立されています。
そして、それらの場所の多くが今回の被災地とも重なっていました。
自然の脅威は想像を超えるものであり、真っ向から抗うことの難しさを改めて実感しました。しかし一方で、自然災害と共生していく方法は、必ずあるはずだとも感じています。
その中で、個人としてできる備えとは何か――。
例えば、写真の住宅は、宅地地盤が崩落したにもかかわらず、鋼管杭が建物を支え続けたことで倒壊を免れていました。
住宅における鋼管杭は、本来「平時の不同沈下対策」を目的とした工法であり、土砂災害までを想定したものではありません。
しかし、これまで視察してきた土砂災害の被災地でも、同様に建物の倒壊防止に寄与した事例を数多く見てきました。
また、住宅地の大部分が冠水した岡山県倉敷市真備町では、浸水によって地盤が洗堀されている宅地を多数確認しました。
それらの建物では、小口径鋼管杭や柱状改良、表層改良などが施工されており、洗堀による不同沈下や倒壊などの被害軽減に効果があったと考えます。
広島で見られた小口径鋼管杭、そして真備で確認した各種地盤改良も、いずれも本来は平時の不同沈下対策として施工されたものです。
しかし、結果として災害時の被害軽減につながる可能性を感じました。
写真1:地盤が流失したにも関わらず
鋼管杭が支持し続けて倒壊を免れた
写真2:大雨で押し寄せ宅地に堆積した土砂
写真3:河川や道路が押し寄せる土砂の流路になる
写真4:洗堀で柱状改良が露出した住宅(真備町)
写真5:洗堀で柱状改良が露出した住宅(真備町)
写真6:洗堀で表層改良が露出した住宅(真備町)
写真7:洗堀で小口径鋼管杭が露出した住宅(真備町)
2016年4月14日・16日:熊本地震
2016(平成28)年に発生した熊本地震により、熊本市南区の一部地域で深刻な液状化被害が発生しました。
私たちは、2011年の東日本大震災の液状化被災地で見られた「傾いた住宅の修復をめぐる混乱やトラブルを、熊本では少しでも防ぎたい」と考え、親友である古川保氏 (すまい塾・古川設計室) に相談し、協力を得て支援活動を開始しました。
「液状化で傾いた建物の無料相談会」と手書きした横断幕を掲げ、テント・椅子・テーブルを古川氏よりお借りし、熊本市南区南高江の杉本不動産様のご厚意により駐車場をお借りして、2016年5月初旬よりボランティアによる被災者支援活動をスタートしました。その後、約1年半にわたり、約80件のご相談対応を行いました。
主な支援内容は以下の通りです。
- 被災状況の聞き取り
- 無償での建物水準測量(傾斜量の測定)
- 無償でのSWS試験の実施
- 測量・試験結果に基づく現状報告
- 修復方法の説明および提案
被災地には熊本県内外を問わず、多くの業者が集まります。
その中には、不安を抱える被災者につけ込むような悪質な営業の情報も見聞きしました。
液状化によって住宅が傾き、被災された方々が抱えておられた悩みは共通していました。
「この傾きは直せるのか」
「どのような方法で修復すればよいのか」
「複数の業者から提案を受けているが、何を基準に選べばよいのか」
こうしたご相談に向き合う中で、それまで一般的に語られていた液状化の“通説”だけでは説明しきれない 多くの実態が見えてきました。その詳細は、地震発生から約1年後の2017年5月に「2016年熊本地震活動の記録」として取りまとめましたが、主な知見として以下が挙げられます。
- SWS試験のみで液状化リスクを判定することは困難である
- 液状化後、地盤は明らかに緩んでいた
- 被災者にとって重要なのは、周辺地盤の液状化程度ではなく「自宅がどの程度被災したか」である
- 平時の不同沈下対策として施工された一般的な地盤補強は、液状化対策とはならず、補強済み住宅でも不同沈下が発生していた
- 周面摩擦力に大きく依存する地盤補強を採用した住宅では、不同沈下が確認された
- 先端支持力に依存する長尺支持杭を採用した住宅では沈下は抑えられていたが、抜け上がり部への充填など高額な修復費用を要した
- 新築時の地盤補強が、修復工事の支障となる場合があった
- 沈下量の違い(例:100mmと300mm)と修復費用は比例せず、ほぼ同程度となるケースが多かった
また、修復までお手伝いしたあるお宅では、ご自宅の傾きによる生活の影響が健康被害として現れていました。
そのご家庭のE様は、もともと右足に痛みを抱えておられましたが、傾いた住宅での生活を続けたことで左足にも痛みが生じていました。被災から9か月後の2017年1月末に住宅を水平に修復したところ、ほどなくして左足の痛みが改善し、大変喜んでおられました。
これは、傾斜した住宅での生活が健康障害を引き起こし得ることを示す、私たちにとって非常に印象深い事例でした。熊本での支援活動を通じて得た経験と知見は、当社の現在の液状化対策・不同沈下対策の考え方の礎となっています。
熊本地震で得られた知見については、日経ホームビルダーおよび日経アーキテクチュアにより取材を受けています。詳細については、下記記事をご覧ください。
日経ホームビルダー 2016年8月号
「簡易な液状化予測の限界を露呈」
https://xtech.nikkei.com/kn/atcl/bldhbd/15/1608/012700002/
日経アーキテクチュア 2016年8月25日号
「ハザードマップは当てにならず」
https://xtech.nikkei.com/kn/atcl/bldnad/15/160825/012800011/
日経ホームビルダー 2017年3月号
「液状化 震災後の補修費用考えた地盤補強を」
https://xtech.nikkei.com/kn/atcl/bldhbd/15/1703/111100012/
写真1:石垣が崩落した熊本城
写真2:益城町内の擁壁の被害①
写真3:益城町内の擁壁の被害②
写真4:益城町内の擁壁の被害③
写真5:液状化で不同沈下した建物①(熊本市南区)
写真6:液状化で不同沈下した建物②(熊本市南区)
写真7:液状化で不同沈下した建物③(熊本市南区)
写真8:「液状化で傾いた建物 無料相談会」の様子
写真9:「液状化で傾いた建物を考える勉強会」の様子
写真10:「南区液状化復興対協議会勉強会」の様子
写真11:水準測量結果の報告
写真12:「沈下修正工事」の様子
2014年8月:広島市を襲った豪雨災害
2014年8月— 広島市を襲った豪雨災害。
その被災地で、私は“素晴らしいこと”を目にしました。
私は住宅の不同沈下防止をライフワークとして、多くの時間を費やしてきました。
また、数多くの自然災害の被災地にも足を運んできました。
しかし、8月23日に広島市安佐南区の被災地で見た光景は、これまで経験したどの災害現場よりも衝撃的なものでした。
直径2mほどもある巨石が、猛烈な勢いで転がってきたら、それに耐えられるものはない。そう感じた瞬間、それまで抱いていた
「不同沈下防止と修復を一生の仕事としてやってきた」
「それなりに社会貢献できている」
という自負は、一気に吹き飛びました。
「いくら不同沈下しようとも、命を奪うことは少ない。」
「不同沈下防止など、土砂災害に比べれば容易な仕事ではないか」
そう思い詰めるほど、土砂崩れが人命を奪った現実は重く、しばらく自信を失い、自己嫌悪にも陥りました。
私は長年、自然災害の被災地を訪れ、悲惨な状況を伝えるだけでなく、その中で見かけた“素晴らしいこと”を発信してきました。そして広島の被災地にも、その“素晴らしい光景”がありました。
写真1の住宅は、そばを流れる小さな川が氾濫し、濁流が流れ込み、床下や庭の土が流出していました。建物は1.6mほど宙に浮いたような状態でした。
しかし、新築時に施工されていた鋼管杭が全く動いておらず、建物をしっかりと支えていたのです。外壁にも目立ったひび割れは見当たりませんでした。
新築時の地盤補強には様々な工法がありますが、鋼管杭は費用面から敬遠されることも少なくありません。
それでも私は思いました。
「よくぞ鋼管杭を採用していた。そして施工も素晴らしい」
9月13日、写真1の使用許可をオーナー様からいただくため訪問した際に撮影したのが写真2です。
この時には、すでに復旧のためのコンクリート打設が行われていました。
その際、オーナー様から
「お陰様で命を救われました」
というお言葉をいただきました。
建物に求めるものは、人それぞれ異なります。
しかし、不可欠なのは
「住む人の命と財産を守ること」
ではないでしょうか。
この建物は、その役割を見事に果たしました。
写真1:8月23日撮影
写真2:9月13日撮影
また、写真3は、写真1・2の建物近くで撮影したものです。
この住宅の敷地は隣地より約2m高く、間知擁壁が設けられていました。しかし、その擁壁は濁流によって流失し、敷地も大きく崩れていました。
ところが、外壁にひび割れが見られなかったため近づいて確認すると、300mm×300mmのコンクリート柱状体が布基礎下に施工され、それが杭のように建物を支えていたのです。

写真3
この住宅は築30年以上とのこと。
当時は、現在ほど地盤リスクが重視されていない時代でした。
それでも、危険性を感じ取った工事関係者が講じた対策が、見事に建物を守っていました。
2010年7月15日発生:
岐阜県の集中豪雨は被災地に行った知人から情報をいただきました。
2009年8月9日発生:兵庫県佐用町を襲った豪雨
2008年8月29日発生:東京都八王子市での斜面の崩れ
「勝ちに不思議の勝ち有り、負けに不思議の負けなし」
・・・現場を歩いてこの言葉を噛み締めた
2008年8月28日発生:愛知県岡崎市での豪雨と住宅の被害
2008年6月13日発生:岩手宮城内陸地震

- いつの地震でも倉は
大きな被害を受けていない
しかし、山に入るとその被害の大きさに驚いた。
立木のまま崩れた
荒砥沢ダムの周辺
2007年7月16日発生:中越沖地震
- 大きく崩れない土留めを見つけて感銘しました。
- 農業用倉庫の倒壊に胸が痛みました。
- 建物増築部分での破損、倒壊が多いことに気づきました。

蛇籠のような土留め:柔軟さと透水性で被害無し
2007年7月:熊本県集中豪雨
- 山の表層滑りと植栽の実態が把握できました。
- この時も洪水時の川の曲がりと両岸の被害の違いが確認できました。
2007年3月25日発生:能登半島地震
- 開口部が多い建物(ここでは店舗が多かった)の弱さを目の当たりに観ました。
- 門前町では町の裏にある休耕田の多さに驚き、復旧の困難さを想像しました。

輪島でも門前町でも店舗の倒壊が顕著でした。
2004年10月23日発生:中越地震
- 谷が埋められた敷地(斜面盛土地盤)の弱さと切土地盤の強さ。
- 150年ほど前に建立された神社の礎石に免震の技法を発見
(2005年7月地盤工学会のシンポジュウムで発表済)。


南魚沼市堀の内町竜光の天満天神社の礎石。発見した時は息がつまりました。
地震によって被災した建物の把握も重要。しかし大きく壊れなかった建物の把握も重要・・と考えて「虫の眼」で被災地を観ています。